骨法整体院木村

姿勢の威力 参

 立ち姿勢でも特に最近気になるのが、スーパーやコンビニのレジなどで「いらっしゃいませ、こんにちは。」と言って

組んだ手をおへその前あたりまでわざわざ持ち上げ肘を曲げ、その形が野球のホームベースのようになっている事です。

これはとても不自然に見えますが何か意味があるのでしょうか?ここ五、六年で随分増えた様に思います。

企業の社員教育で参考、又は指導されているのが元客室乗務員(スチュワーデス)の方が多いようですが、その方々のマネをしているようですので意味を持たせている訳ではないようです。事実、客室乗務員の方々が並んでいるところを見ても手の組み方は様々です。要は「相手に失礼のない様に」というのが基本であって明確な決まりがある訳ではないという事の様です。

対して日本の礼法の大家と云えば「小笠原流」です。小笠原流はもともと源頼朝と同じ清和源氏が発祥と云われ

弓、馬、礼の法のうち戦後礼法に特化して今日に至っています。要は日本の礼法は武士の作法なのです。

武士はお辞儀をする時は手を前で組みません。いざと云う時に刀をサッと抜ける様にする為です

この手を前で組まない状態を『円相(えんそう)』と云って元々禅で悟りの象徴図として表現された言葉でそれを体で表したものです。この姿勢は力みのない自然な状態なので神経伝達、血行などが滞りなく循環され健康的な状態を作り出します。

前にも書いた様に自分の健康的な状態で相手に接する事が一番失礼のない状態であると言えます。

この事から手を組む時は自然に前で軽く組んで、決して肘を曲げておへその高さまで手を持ち上げたりはしません。

もう一つ、手を組んでおへその位置まで手を挙げると気持ちが落ち着きません。先程の「円相」の状態と比べてみて下さい。

円相を取っていた方が気持ちが落ち着きませんか?これは重心が落ちて頭がフラつかず、体の中心線が決まり脳波が安定する為です。見た目にも落ち着いた物腰に見え相手に好印象を与えます。面接などでは相手に正面を向けて踵を付け、つま先を約60度に開いて話す事も重要です。足を開いて立っていると一見堂々として良いようですが「仁王立ち」ですので偉そうに見え、今流行りの『上から目線』になってしまいます。数人の面接官から質問などを受けた際、顔だけ向けて答えるのも印象が悪いものです。立っている場合は自然に相手に向き、座っている場合は心もち質問者の方へ自分の正面を向けます。顔だけを動かしていると悪気はなくても相手に気持ちが伝わらないどころか誠意がない様に見えてしまいます。礼法とはどの人でも自分の気持ちを失礼のない様に伝えられる最低限の『型』なのです。基本形と云ってもいいかも知れません。ですから当然慣れた相手との会話などではこの限りではありません。

因みに手を前で組む事を『差手(さしゅ)』と云います。左手を刀の鞘、右手を刀身に見たてて右手を左手に納めます。

長時間立っている時や人の話を聞く時などにします。ですからお辞儀の時に手は組まないのが正解です。人と話していてお別れの挨拶をする時は横着せずに差した手を抜いて(組んだ手を外して)『円相』の状態でお辞儀をします。

水着を着ているモデルさんを「健康美」と表現する事がありますが、本当の健康美とは日本の礼法、作法の中にあるのです。

姿勢の威力 弐

 前回は「恐らく現代人が一番長くとっている姿勢」として『座り姿勢』を例に上げました。今回は人間の基本である『立ち姿勢』の話です。

簡潔に言うと人間の姿勢は『水平垂直であるべき』なのです。これは整形外科でも臨床上行われている事ですが、こと私達の日常でとなると

「言われれば当たり前」という程度でそれ程重要に感じてはいないと思います。いくつかのポイントがありますが簡単に説明すると、まず正面または真後ろから見た時に耳、肩、骨盤などが水平である事、頭の中心から踵を合わせた点まで引いた線が垂直になっている事、横から見た時に耳、肩、股関節の出っ張り、膝の中心あたり、くるぶし等が一直線且つ地面に対して垂直になっている事が上げられます。

これの何が凄いかと云うと『疲れない』という事です。試しに気を付けの姿勢から頭だけをグッと前に出して1分くらいじっとしてみて下さい。

首の後ろや肩が張ってきて辛くありませんか?そうです、これが首痛や肩凝りの要因の一つです。なあんだ、と思いました?でも普段どれだけ自分の頭の位置を確認しているでしょう?ほとんどないのではないでしょうか。ないから立っても座っても、寝ても覚めても頭の位置が正常値になっている事がないのです。これは単に首や肩が辛いだけではありません。良い姿勢というのは血流などが滞りのない状態です。

頭が前へ出た状態は頭部への血流などが悪くなっている状態です。

頭に血が流れなければ、頭が冴えない、ボーッとする、眠いはずないのに眠気が取れない、物が見えずらい、音が聞こえにくい、鼻が詰まる、話していて滑舌が悪い等々ざっと挙げてもこれだけ出てきます。前回の「礼を失しない」という観点から云うと「相手の話を正しく理解できない」という事にも繋がります。そうなるとコミュニケーションがうまく取れなくなり人間関係にも支障が出てきたり、商談などでうまく事を運べないという事にも繋がります。

もちろん見た目も美しくありません。全体的なシルエットもそうですが、顔が前へ出ている人と正しい位置にある人とでは顔の肌の張りが違います。当然顔が前へ出ている人の方がしわが多くなるのです。

今回は『立ち姿勢』の中のごく一部として頭の位置の異常がもたらす様々な弊害を挙げました。しかしこんなのはまだまだ序の口なのです。

姿勢の威力 壱

最近テレビなどでも姿勢の重要性が言われるようになりましたが、本当に重要な事だと受け止めている人は少ないように思います。

当たり前の事ですが「良い姿勢」とは「正しい姿勢」と云う事であり人間が生きていくに一番無理のない効率的な状態なのです。

ですから昔のおばあちゃんや学校の先生は私達の背中に定規を入れて姿勢を矯正してくれたのです。それでは日常での正しい姿勢とはどのような姿勢なのでしょう?

例えば椅子に腰をかけている時。背もたれに背中をつけて寄りかかっている人が大半ではないかと思います。腰を深くかけているならまだいい方で、浅くかけていて背中を背もたれにグッと押しつけるように斜めになって座っている人。これは一番腰に負担のかかる状態です。勿論見た目もだらしなく良い事は何一つありません。

就職活動などでの面接の際に「腰を浅くかけ、背もたれに寄りかからぬ様に」とよく指導されたものですが、これは相手に礼を失しないだけでなく無理なく良い姿勢をとるコツなのです。

ですから礼節と健康が一致していると言えます。逆に「健康的な状態が相手に敬意を与えている」とも言い換えられるかもしれません。これは腰を浅くかける事により背骨の正しい状態が作られるからなのです。最近では「深く腰を掛け、背もたれには寄りかからぬ様に」などと指導される事もあると聞きました。

これでは自然に反した座り方になるので無理がかかります。力が入ってしまい相手に意識を集中できない=失礼になります。

このように正しい姿勢を取ると云う事は単に自分の健康面ばかりでなく、対人関係に於いても重要な役割を果たしているのです。

日本人はこういう事を自然にやってきた「合理的かつ繊細な民族性を持っている」と言えるのではないでしょうか。姿勢の持つ威力をお分かり頂けたでしょうか。